横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)946号 判決 1983年5月16日
原告
有限会社松家
ほか二名
被告
ミヤマ株式会社
主文
被告は、原告大貫忠生、同大貫道之に対し各金九二〇万二五九六円及びうち各金八四〇万二五九六円に対する昭和五六年一二月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告大貫忠生、同大貫道之のその余の請求を棄却する。
原告有限会社松家の請求を棄却する。
訴訟費用中原告有限会社松家と被告との間に生じた部分は同原告の、原告大貫忠生、同大貫道之と被告との間に生じた部分はこれを二分し、その一を被告のその余を原告大貫忠生及び同大貫道之の各負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告有限会社松家に対し金二〇二六万三五七七円及びうち金一九二六万三五七七円に対する、原告大貫忠生、同大貫道之に対し各金二一七七万一九八九円及びうち各金二〇七七万一九八九円に対する昭和五六年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(1) 発生日時 昭和五六年一二月二六日午前七時五分頃
(2) 発生場所 横浜市神奈川区入江一―七―三二先市道の横断歩道上
(3) 加害車両 普通貨物自動車(長野一一す二六一五号)
(4) 右運転者 田代久人
(5) 被害者 大貫登志(以下登志という)
(6) 態様 前記日時場所において同横断歩道を規制する歩行者用信号機の青に従い東から西に横断中の登志の左後方に新子安方面から神之木町方面へ右折進行してきた加害車両前部が衝突
(7) 結果 登志は脳挫傷兼頭蓋内出血により同日午後〇時一五分頃横浜市神奈川区大口通り一三四所在の鈴木病院で死亡
2 責任原因
被告ミヤマ株式会社(以下被告会社という)は前記加害車両の保有者であるから自動車損害賠償保障法第三条に基き、本件交通事故から発生した損害を賠償する義務がある。
3 損害(円以下切り捨て)
(1) 原告有限会社松家(以下原告会社という)の損害(金一九二六万三五七七円)
原告会社は昭和三六年一二月頃から、飲食店を営み、社員は、大貫芳雄・大貫登志の二名である。
登志は原告会社において、「料理屋のおかみ」として稼働し、原告会社の収入に大きく貢献してきた。
登志は本件事故がなければ少なくとも一五年間おかみとして稼働できたと考えられるから登志死亡による原告会社の損害は別紙計算書(1)のとおりである。
(2) 原告大貫忠生、同大貫道之の損害
(各自金二〇七七万一九八九円)
イ 登志の逸失利益
登志の逸失利益は別紙計算書(2)のとおりである。
ロ 慰謝料
本件交通事故当時登志は満六二歳の健康な女子であつた。事故によりその生命を奪われた精神的苦痛を慰謝するためには金五〇〇万円を要する。
ハ 原告らの相続
相続人は原告大貫忠生、同大貫道之の両名であるから、各二分の一の割合により登志の被告に対する右イ、ロの損害賠償請求権を相続した。
ニ 固有の慰謝料
登志の子である右原告両名が母の死により受けた精神的苦痛を慰謝するためには各自につき金五〇〇万円を要する。
4 損害の填補
原告側は被告から損害賠償として金四六万九六〇〇円の弁済を得た。
5 弁護士費用
被告が負担すべき弁護士費用は各原告について各金一〇〇万円が相当である。
6 よつて、被告会社に対し本件交通事故による損害賠償として、原告会社は金二〇二六万三五七七円、原告大貫忠生、同大貫道之は各金二一七七万一九八九円及び原告らの弁護士費用各金一〇〇万円を除くうち金合計六〇八〇万七五五五円に対する不法行為の日である昭和五六年一二月二六日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2及び4の各事実は認める。その余の請求原因事実は知らない。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。
二 そこで原告らに生じた損害について判断する。
(1) 原告会社の損害
成立に争いのない甲第一号証の一、原告会社代表者の証言により成立の真正が認められる同第二号証の一ないし八、成立に争いのない同第三、第五号証の一ないし六、第六号証及び原告会社代表者の本人尋問の結果によれば、登志は大正八年二月一四日生の健康な女性で、本件事故当時、原告会社において、いわゆる「料理屋のおかみ」として稼働していたものであること、原告会社は、昭和三六年一二月二〇日に、資本金三〇万円(出資者大貫芳雄二〇万円、登志五万円、大貫啓輔五万円、本件事故当時は大貫芳雄二五万円、登志五万円)、取締役は大貫芳雄として設立された有限会社で、そば、すし屋を主体とする飲食店業並びに風俗営業の小料理店を営んできたものであること、本件事故当時の従業員は、板前二名、見習い一名、女中二名の五名であり、主に予約の客を中心として営業していたこと、登志はこれらの従業員の上に立ち、客の接待等采配を振つていたこと、登志死亡の約半年前である昭和五六年六月三〇日決算によると、昭和五五年度の当期売上高は四四〇八万一四七四円、売上総利益は二四五七万五一〇九円、営業利益は三七一万一八一五円であり、登志死亡の約半年後である昭和五七年六月三〇日決算によると、昭和五六年度の当期売上高は四六三一万二一五四円、売上総利益は二四〇六万一五八七円、営業損失二万三八四六円であることが認められる。
他方右各証拠によれば、原告が雇用していた女中とは登志の長男の妻大貫貞子(昭和一八年一一月六日生れ)と次男の妻大貫理美子(昭和二二年二月二二日生れ)であり、原告会社代表者大貫芳雄は原告会社の前身である飲食店を現在地に興した昭和二六年から一貫して登志と共に営業にたずさわつたものであること、登志は原告会社から給料を得ていたこと、原告会社が営業している土地及び建物は大貫芳雄の所有であり、原告会社が月三〇万円の賃料で借り受けているものであること、昭和五六年度が赤字決算となつた理由は、給料手当の増額、家賃地代の値上、公租公課の負担増を主とすることが認められる。
以上の事実をもとに考えると、原告会社は登志の死亡により減収を来したと判然言うことができないし、原告会社代表者本人が強調する営業上の知恵の如きも、余人を似てこれに代えることが困難であるとは言い難い。他に原告会社の損害の主張を証明するに足る証拠はない。
(2) 原告大貫忠生、同大貫道之の損害
イ 登志の逸失利益 金一〇二七万四七九二円
前掲甲第二号証の一ないし六及び原告会社代表者本人尋問の結果によると、原告会社は、登志死亡の後である昭和五七年一月一〇日を期限として税務官庁に提出すべき昭和五六年分(同年の暦年による)所得税源泉徴収簿上、登志に支払つた給料を同年六月までは月額金一五万円と、同年七月から一二月までは月額二八万円と各記載していたこと、原告会社では税金関係帳簿類の整理を専門家に依頼せず自ら作成していること、他には同じ時期に板場の者一名の給料を月額一七万円から一八万円に、他の一名を一五万円から一七万円に増額した旨の記載がなされているにすぎないことが認められ、これに登志が原告会社の出資者であることをも考え併せると、月額二八万円の支給が現実になされたと一応認められるものの、登志が将来にわたり得たであろう収入を算定する基礎として使用するには不十分であり、月額一五万円を基礎とするのが相当である。
経験則にてらして、同人は本件事故にあわなければ、「料理屋のおかみ」という仕事の性質からみて、なお八年間は原告会社において稼働することができたものと認められる。
また、昭和五五年の簡易生命表によると、同人の余命は少なくとも二〇年であり、本件事故にあわなければ、なお二〇年の期間、国民年金の支給を受けられたものと認められる。
次に、同人が未亡人であること「料理屋のおかみ」という仕事をもつていること、六二歳という比較的高齢であること等諸般の事情を考えあわせると、控除すべき生活費は、その収入額の三割程度とみるのが相当である。
以上により、同人の得べかりし利益の事故当時における現価をいわゆるライプニツツ方式により計算すると、次のとおり金一〇二七万四七九二円となる。
(ⅰ) 150,000×(1-0.3)×12×6.4632=8,143,632
(ⅱ) 244,300×(1-0.3)×12.4622=2,131,160
(ⅰ)+(ⅱ)=10,274,792
ロ 登志の慰謝料 金四〇〇万円
本件交通事故により突然その生命を奪われた登志の精神的苦痛を慰謝すべき額は、前認定の事情を勘案して、金四〇〇万円と認めるのが相当である。
ハ 原告らの相続
原告大貫忠生、同大貫道之のみが登志の子であり、同女の相続人であることは、成立に争いのない甲第一号証の一ないし三により認められ、登志の右逸失利益及び右慰謝料の損害賠償請求権を各二分の一ずつ(金七一三万七三九六円)相続したことになる。
ニ 原告らの慰謝料 各金一五〇万円
登志の死亡により、その子である原告らか蒙つた精神的苦痛を慰謝すべき額は、同女の年齢、本件事故の態様、原告らがすでに成人し、独立の生計を営んでいること(この事実は原告会社代表者本人尋問の結果により認められる。)、その他諸般の事情を斟酌すると、各金一五〇万円と認めるのが相当である。
(3) 損害の填補
請求原因4の事実は、当事者間に争いがなく、原告大貫忠生、同大貫道之はこれを等分して受領したことが弁論の全趣旨より認められる。
(4) 弁護士費用 原告大貫忠生、同大貫道之につき各八〇万円
原告大貫忠生、同大貫道之が原告ら訴訟代理人に本訴追行を委任したことは記録上明らかであり、これに右弁護士費用を除く認容総額、本件事案の内容、審理の経過、その他諸般の事情を斟酌すると、被告が原告らに対し賠償すべき弁護士費用は、各金八〇万円と認めるのが相当である。
三 よつて被告に対し原告大貫忠生、同大貫道之が各金九二〇万二五九六円及びうち金八四〇万二五九六円に対する昭和五六年一二月二六日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却し、原告有限会社松家の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項本文、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 曽我大三郎)
計算書(1)
1 昭和55年7月1日から同56年6月30日までの原告会社の純営業利益は、金3,711,815円であつた。
2 登志の上記利益に対する寄与率は50%を下らない。
3 原告会社の逸失利益は以下のとおり計算される。
3,711,815×0.5×10.3796(15年に相応するライプニツツ係数)=19,263,577円
計算書(2)
1 登志は本件交通事故当時、毎月金280,000円の収入を原告会社より得、その他にも年額金244,300円の国民年金を受領していた。
2 登志の労働可能年数は15年、余命は約20年(昭和55年簡易生命表による)、その生活費は同人の年齢からして30%が相当である。
3 登志の逸失利益は以下のとおり計算される。
280,000円×12×(1-0.3)×10.3796=24,412,819円……a
244,300円×(1-0.3)×12.4622(20年に相応するライプニツツ係数)=2,131,160円……b
a+b=26,543,979円